グルーブ・マシン20周年記念盤 の文章を訳してみた(後編)


午後7:30/8時まで:僕達はもう数時間作業し酒場に向かった。パットも家路に向かうまでにステラを数杯飲んだはず。たいてい僕達4人はタクシーを捕まえキャムデンに向かい、パレス・オブ・ディングウォールでも飲んだ。思い出すのはある晩のこと、スタジオ作業が早く終わったのでチャーリング・クロス・ロードのアストリアにシュガーキューブスを見に行った。僕個人そのステージにとても感動し、僕達がレコーディングしていたものとシュガーキューブスを比べて、僕達のものが薄く感じられたほどだった。アルバムの2曲以外はすでにライブセットにある曲からだったけど、シュガーキューブスを観たら新たに曲を追加したくなった。結果としてno for the 13th timesとGrinがアルバム製作中にできあがった。この2曲のないアルバムなんて想像できないから、この2曲へのインスピレーションを与えてくれたシュガーキューブスには感謝しているんだ。


ロンドンでパットとレコーディングをしている同じころ、ウエスト・ミッドランドのレディッチにあるワーク・ショップ・スタジオでもレコーディングを行っていた。それはB面用の新曲のためだった。レディッチのスタジオは安く、プロデューサーもやかましく言う人もいない。誰に見られもしないわけだが、それがすばらしい実験になることだってある。レディッチにいたときはGetting it rightに全然興味はなかったが、自分たちがイマジネーションをどこまで広げられるかを試してみたかった。それがGoobye fatmanやTen Trenches DeepやA Song Without An Endにつながった。この3曲はその当時の自分たちにとってはとても実験的な曲だったが、すべてライブセットの定番となった。


グルーブマシーンは88年の8月15日月曜日にリリースされ、UKアルバムチャートで初登場18位だった。今までこんなうれしいことはなかった。チャートにアルバム名が載ったあとのギグはシェフィールドのランドミルだったが、それは素晴らしいギグだった。僕がワンダー・スタッフやヴェント414やソロのアコースティックでランドミルで戻ると、いつでもその会場ではとても特別な何かを感じるのだが、それはグルーブ・マシーンのチャート初登場のときの思い出と結びついているのではないかと思っている。そこでギグをして2年、チャートの順位とともにバンドもまっとうになった。


あれから20年経ち、今僕達はここにいて、再びレコーディングをしている。僕のホームスタジオでこの文章を書いているが、傍らにはマーク・マッカーシーがいてsome sad someoneのロブのベースパートをリハーサルしている。結成時のメンバーから二人も亡くなってしまったのは悲しいことだ。古くからの友人だったマーティン・ギルクスとロブジョーンズ。グルーブ・マシーンの曲が再び演奏されるのを聞けて、僕は本当にいとおしい気持ちになる。笑い声やあのころ僕達4人で特別な旅をしたことを思い出させてくれるから。


マルク・トゥリースと僕は、来週再びパット・コリアーと、ロンドンはペニー・ヴェイルにある彼の新しいスタジオに集まることになっている。ギターとボーカルパートを録るためだ。当時と比べてレコーディング作業で大きく違うことといえば、アンドレス・カルがニューヨークにある彼のスタジオでドラムを録音し、それを僕にメールで送ってくるということなんだ。メールでだよ、88年にはインターネットなんて存在すらなかったのにね!サウス・シュロプシャーに建てた落ち着く家から離れてレコーディングのためロンドンに向かうと考えると、今では気が重くなるけど、21歳のころの僕を振り返るとそんなこと思いもしなかったね。あの頃、ミッドランドから離れるということが、なんとしてでもバンドをやっていたい理由だったから!


今回のバージョンのグルーブ・マシーンには、追加されている曲がある。who wants to be a disco kingはファーストとセカンドアルバムの間にリリースされたシングルで、多分HUPよりもこのアルバム向きだと思う。Ooh she saidとAstley in the nooseはit's year money i'm after babyのB面として作られた曲だが、当時からオーディエンスに高い人気があり、入れることにした。今回のアルバムレコーディングだけど、ラジオセッションやライブでの演奏みたいに鈴の音や口笛がオリジナルそのままで、今でも88年当時と同じように演奏しているのに気付くだろう。オリジナルを変える気はまったくないのだからね。オリジナル・バージョンにほぼ忠実に演奏していることに注目して欲しい。また、今回のグルーブマシーンに加わった新しい足、エリカ・ノッカルスという足だけど、彼女がバイオリンパートを加えている。ten trenches deepの場合、バイオリンが曲の終盤を突き破るけど、これはライブでおなじみだ。他の箇所でもエリカがいい感じに音を加えている。


今回このアルバムを作ったのは、君のレコード・コレクションにあるオリジナル版と取りかえて欲しいということでは全くないんだ。ただ、今の仲間達の間に流れる気持ちが、最初にレコーディングしたあの頃と同じくらい熱いものだと感じているから。何年もの間バンドの通る道は平坦ではなかった。だけど今明らかにいい方向に向かっているし、僕個人としてだけど、あれから20年経った僕達が現在どう演奏しているかを残しておきたかったんだ。


君のグルーブマシーンに何本の足があるかは関係ない、グルーブしてさえいればそれでいいんだ。


マイルス・ハント 2008年8月



前編
http://d.hatena.ne.jp/rubyhorse/20081130#p1