tatsuya 最愛なる者の側へ@紀伊国屋ホール

津田健次郎さん主演の舞台「tatsuya 最愛なる者の側へ」紀伊国屋ホールに行ってきました。この作品は、1960年代後半の高度成長期、学生闘争の時代、当時19歳の網走出身の少年が起こした連続射殺事件「永山則夫事件」という実在の事件を舞台化したもので、鐘下辰男氏の代表作です。
この救いようのないやりきれなさ・・・。生まれながらの貧困と両親の不和のよる不遇の少年時代、高度成長期・若者が金の卵と称されるそんな時代でも彼から離れることはない不条理な差別と暴力、安定しない仕事・・・決して逃れることのできない生きるという泥沼。でも生きていかなくてはいけない、いや、死ぬことの方が怖いから生きている。
場面転換(=彼の人生の出来事一つ一つ)があっても何一つ光明のないタツヤの人生。犯罪を許容することはできないが、抜け出すことを許されないかのような彼の人生の暗闇に、救いはないのかと終始居た堪れない気持ちだった。時代が彼という不幸を産み落としたのだろうか?
いったい彼はどんな気持ちで銃を放ったのだろう。保身?自暴自棄?悲しみ?無心?単に金銭のためだけではなく、他人を撃ち殺すという行為によって法的・社会的に自分という存在を抹殺したいという気持ちもあったのかもしれない。特に彼は頭部を集中して狙っていることから、相手に自分自身を投影しこんな境遇に生まれついてしまった、そしてそれを変えることのできない社会にいる自分というものを壊してしまいたかったのだろうか。
こういう重いテーマの中にあって唯一雰囲気の違うところもあって、それは集団就職訓練のシーン。体育会系なノリで、つくづく役者さんは体力がいるなぁと思った。
最愛なる者・・・タツヤはキョウコに母親の面影を見ていたのだろうか。
キョウコの着ているハイカラな洋服の赤が、やけに印象的だ。唯一色味を持っている。その鮮やかさが唯一の希望を象徴していたのかもしれない。タツヤが入隊を拒まれた自衛隊の日の丸の赤はくすんでみえたのに。

演じる皆さんの気迫と胸が苦しくなる世界観に圧倒されましたが、時間軸の変化を捕らえるのに難しいところがあったり、兄弟達と仕事仲間を同じ役者さん達が演じていてその違いが最初わからなくて、やや混乱したところもありました。


【CAST】津田健次郎伊藤裕子鈴木省吾大口兼悟和田正人、渡辺修(月ゴロー)、松本忍、岩下政之、横田紘一、前田直希、野中翔太
【ボイスアクター】岩崎政実、前田剛、内藤玲