reading stage『キノの旅-the Beautiful Word-』@竹芝・ニューピアホール

森田成一「仕事をしなくいい国」「人の痛みが分かる国」
堀内賢雄「旅の途中」「多数決の国」

キノという女の子と、言葉を話すモトラドバイク)・エルメスが世界を旅する物語です。今回の朗読で初めてその内容に触れました。

ステージ後方中央には、エルメスのモデルとなったバイクが置かれ、朗読する人がステージ中央の椅子に腰掛け朗読が進みます。後方では管弦楽の女性3人組みrush!と鍵盤の演奏による効果も追加され、ライトの色使いや映し出される切り絵模様、黒星紅白さんのイラストで、朗読の世界をさらに豊かにします。

森田さんの読む物語は近未来を舞台にしたような世界で、「すべて機械まかせの社会の中での人の仕事は」「他人の心がしゃべらずとも分かるようになったら」という、便利さの上にあぐらをかいてしまった国の悲劇の物語。
賢雄さんの方は中世を思い起こさせる世界で、霧のように透けている青い人々の住む不思議な世界と、「多数決で全て決めるのが正義」という国に起こった悲劇の物語。

過度に機械化された文明化社会への警鐘、便利さ・贅沢さの中で健全な精神を持って人間らしく生きていくこと、人との関わりの中で社会生活を営むことの大切さ、多数決という規則に雁字搦めになりマイノリティに耳をかさない人間のエゴから生まれる悲劇など、キノの旅する国々の物語を通してとても考えさせられる内容でした。

朗読の印象ですが、同じ本からの物語とはいえ、朗読する人によってこんなに味わいが違うものだなぁと実感しました。
森田さんは物語を真っ直ぐに読み聞かせようという姿勢や若々しい瑞々しい感じがし、一方賢雄さんの方は、重苦しい内容を含んでいながらも、セピアトーンのクレヨンで書いた絵本のようなぬくもりがあり、起伏を持たせつつ安定している読み口という感じで、眼前に世界がぱっと広がるようでした。
演奏や光の演出の効果もあると思いますが、世界に入りすぎて、私は朗読人がいるという認識さえなくなってしまうようでした。
前日は女性の方だったので、さらに違う雰囲気だったのだろうなぁと、今更ながらそちらも聞いてみたかったです。

最後に二人揃って出てきて挨拶し、なぜか賢雄さんが森田さんの腕を組んでルンルンな感じでw、仲良く退場していきました。